ほかの書体とくらべてみよう!【漢字字面篇】

游ゴシック体の漢字の字面はやや小さめです。ヒラギノ角ゴシック体とくらべて、字面のちがいをみてみましょう。(字面:たとえば12ptなら12ptでいくつかの書体をならべた時に、同じ大きさのはずが小さくみえる書体があります。そういう書体をさして「あの書体は字面が小さい」などといいます。一般に古い書体のほうが字面は小さめです。)

 

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ほとんど同じように見えますが…

 

ヒラギノとくらべると、游ゴシック体のほうがわずかに字面が小さくみえます。もっとちがいの大きな書体とくらべてみましょう。

 

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同じサイズでもこれだけ字面がちがいます

 

小塚ゴシックと游ゴシック体をくらべると、角ゴシック体の字面のつくりかたにもさまざまなアプローチがあることがよくわかります。小塚ゴシックはなるべく字面を大きくして文字を大きくみせることが書体の目的にかなうため、このような字面になっているのだと思います。
それでは游ゴシック体の字面が小さくなっているのには、どんな意図があるのでしょうか?

 

こんな意図があります。
01)字面を小さくする

02)文字をならべたときに文字間のスペースが十分のこる

03)ゆったりとした明るい印象の組版になる

 

游ゴシック体がおとどけしたい組版は、漢字らしいかたちをした漢字と、かならしいかたちをしたかながならんでいる、ごくスタンダードな組版です。小さな字面からうまれる文字のまわりのゆったりとしたスペースも、その目的にかなうと字游工房は考えています。

ほかの書体とくらべてみよう!【漢字ふところ篇】

游ゴシック体の漢字のふところはややせまめです。ヒラギノ角ゴシック体とくらべて、ふところのちがいをみてみましょう。

(ふところ:「音」の日や「貝」の目など、文字のなかのスペースをふところといいます。「貝」のハの内側や「下」の丶の上下のスペースなども同様です。)

 

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「下」の丶の長さもかなりちがいます

 

「音」の日の巾をみると、游ゴシック体のふところがせまいのがおわかりいただけると思います。もっとちがいの大きな書体とくらべてみましょう。

 

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「下」の丶の長さがさらにちがいます

 

小塚ゴシックと游ゴシック体をくらべると、角ゴシック体のふところのつくりかたにもさまざまなアプローチがあることがよくわかります。小塚ゴシックはなるべくふところをひろくして文字を大きくみせることが書体の目的にかなうため、このようなふところになっているのだと思います。

それでは游ゴシック体のふところがややせまめなっているのには、どんな意図があるのでしょうか?

 

こんな意図があります。

01)ふところをせまくする

02)伝統的な文字のかたちに近づく

 

ふことろを「せまくする」というより、ふところを「ひろくしない」というほうがより正確です。ここでいう伝統的な文字とは、手書きの文字、もっといえば楷書です。游ゴシック体は、そうした文字がもっている字形からはなれすぎないようにデザインされています。

 

字面の記事と同じことをまた書いてしまいます。游ゴシック体がおとどけしたい組版は、漢字らしいかたちをした漢字と、かならしいかたちをしたかながならんでいる、ごくスタンダードな組版です。伝統的な文字のかたちをふまえた字形が、その目的にかなうと字游工房は考えています。

ほかの書体とくらべてみよう!【ファミリー構成篇】

游ゴシック体のファミリー構成をヒラギノ角ゴシック体のファミリー構成とくらべてみます。ふたつのファミリーをまぜて細いほうからならべてみましょう。

 

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グレーがヒラギノです

 

ヒラギノは9ウェイト、游ゴシック体は7ウェイトのファミリーです。游ゴシック体のほうがファミリー数は少ないですが、より細いLをもっています。ヒラギノW2と游ゴシック体のRがほぼ同じ太さになりそうです。

 

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グレーが小塚です

 

小塚ゴシックは6ウェイトのファミリーです。呼び方はちがっていますが、小塚ゴシックのELからMまでと、游ゴシック体のLからDまでの太さはほとんどおなじでした。ならべてびっくり。游ゴシック体のほうが1ウェイト多い分、太い方がより細かく割られています。

 

※この記事の游ゴシック体のファミリー構成は、2008年1月の時点での予定です。変更の可能性もあります。

游ゴシック体のエレメントは丸い?丸くない?

游ゴシック体のエレメント(エレメントとは文字のタテ画やヨコ画、点やハライなどの部品のことです)には丸いところと丸くないところがあります。

下の画像のオレンジの●は、エレメントの丸い部分、青い×は丸くないとがった部分についています。

 

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とがってるところもあります

 

かなは漢字とは少しだけちがうルールでエレメントが丸かったり、とがっていたりします。ヨコ画起筆の上、点起筆の一方がとがっているのがおわかりいただけるでしょうか?

 

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かなは漢字よりもとがってる部分が多いです

 

游ゴシック体かなのエレメントが丸いかとがっているかは、筆書きしたときにどうなるかで決まっています。筆といってもレタリングで使うような平筆ではなく、習字でつかうあの筆です。
エア筆で結構ですのでヨコ画をトン・スー・トンと書いてみてください。最初のトンの時、筆の穂先は左ナナメ上を向いていると思います。游ゴシック体のかなは、その穂先の方向にある角がとがっています。それ以外の筆のおなかやおしりで書く部分は丸くなります。タテ画、点なども同じです。
漢字にもこのルールを当てはめると少々うるさくなるので、あえて合わせず丸くしておくことにしました。

 

游ゴシック体に、手書きのやわらかさや筆書きのニュアンスを感じとってもらえるとしたら、こうしたエレメントも一役買っているのだと思います。

 

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交差部分や接触部分は角のままです

 

ほかの書体とくらべてみよう!【かな篇】

游ゴシック体のかなとヒラギノ角ゴシック体のかなと小塚ゴシックのかなをくらべてみます。

 

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まさに三者三様です

 

游ゴシック体のかなのデザインについては、下記のインタビューを読んでいただくとして、この記事ではシンプルに3つのかなをくらべてみましょう。

いちばん目につくのは字面のちがいでしょうか。上の2つはさほどちがいませんが、小塚ゴシックの字面の大きさが印象的です。「う」の巾や、「お」の切り返し(2画目の縦画から左にはねたあと右にいこうとするところ)などに游ゴシック体の個性がでています。

カタカナもみてみましょう。

 

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游ゴシック体の「カ」のハネはなんというか儚げです

 

カタカナだと3つのかなの字面のちがいがはっきりでます。游ゴシック体のカタカナは小さいのです。カタカナはシンプルなだけに、ながい左はらいなどに、それぞれの書体の個性がはっきりでています。

かなはこうやってつくりました

游ゴシック体のかなのつくりかたを順をおって説明いたします。

 

01)下書き
游明朝体を下にしいてシャープペンシルで下書きをします。まずは游明朝体にあわせて書いてみて、おかしいと思う文字はどんどん変えていきます。

 

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下書きサイズは1文字48mmです。

 

游明朝体Rをのっけてみましょう。

 

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「い」はかなり変わってます。

 

02)パソコンに取り込み

下書きしたものを、スキャナをつかってパソコンに取り込みます。

 

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グレースケールではなく白黒二値で取り込みます

 

03)フォント制作ソフトでアウトライン作成

パソコンに取り込んだ下書きをフォント制作ソフトでトレースしていきます。

 

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ソフトはドイツのURW++社製です

 

トレースは自動ではなく人力です。ポイントの置き方がアウトラインの質をおおきく左右するので、手で書くほうが早いのです。アウトライン作成にかかる時間は1文字およそ15分くらい。「ゑ」など複雑なかなはやはり時間がかかります。

 

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ペンツールでコツコツカチカチと書きます

 

いったん完成です。

 

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交差部分がおおいと書くのがたいへんです

 

04)プリントアウトして修整

プリントアウトしたものをホワイトボードにはって、かな全文字を見ながら一文字一文字の大きさ、太さ、形などをチェックします。アウトラインでプリントアウトしたものに修整点を記入して、フォント制作ソフトに戻って修整します。品質が充分にあがるまで修整をくりかえします。

 

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30mmでプリントすることが多いです

 

ひらがなとカタカナの正音・濁音・半濁音・ようそく音など、かなのグループとしてまとめて制作するのは200文字ほどです。その200文字をおおよそ1カ月ほどで制作します。最終段階では漢字、欧文、記号などもあわせてテスト用フォントをつくり、実際に文字組をして確認をします。

ルビ用かなが入ってます!

游ゴシック体にはルビ用かなが入ってます。ルビというのは漢字のとなりに小さくならんで漢字の読みを教えてくれる親切なアレのことです。この記事では、ふつうのかなとルビ用かなのデザインのちがいを解説します。

 

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ルビにはルビのデザインがあります

 

游ゴシック体のLで組んでみました。右のか細いルビは、ふつうのかな(以下標準かな)で、左のしっかりしたルビはルビ用かなで組んであります。おわかりのとおり太さがかなりちがいます。
游ゴシック体のLの場合、標準かなをルビにつかってしまうとサイズが小さくなるぶん細くなりすぎてしまうのです。そのために標準かなよりもずっと太いかながルビ用かなとして入っています。游ゴシック体Hもみてみましょう。

 

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濁点の大きさもごらんください

 

おなじく右が標準かなで、左はルビ用かなで組んであります。Lでは太くなっていたルビが、Hでは細くなっています。Lとは逆に、Hの標準かなはルビでつかうには太すぎるのです。

 

ルビ用のかなでは太さの調整のほかにも、濁点を大きくしたり、せますぎるアキをひろくしたりする特別な調整をしています。ルビは一般に小さく使われることが多いので、太すぎたり、細すぎたり、せますぎたりするかなをつかうと読みにくくなってしまうからです。

 

せっかくのルビがかえって読みの邪魔をしないよう、肌理のこまかい調整がしてあるのがおわかりいただけたでしょうか?

 

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ルビ用かなも丸めてあります

 

※游ゴシック体のルビ用かなを使うには、OpenTypeをサポートしているアプリケーションが必要です。

ほかの書体とくらべてみよう!【欧文篇】

游ゴシック体の欧文とヒラギノ角ゴシック体の欧文と小塚ゴシックの欧文をくらべてみます。

 

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欧文も三者三様です

 

游ゴシック体の欧文は、多くの和文従属の欧文(日本語フォントのなかの欧文のことです)のように、エレメントレベルでかたちをあわせるということをしてません(↑の図ではヒラギノがそうなっています)。游ゴシック体の漢字かなのエレメントは丸いですが、欧文はとがっています。

また、漢字かなと大きさをそろえるために字游工房独特のベースライン設定をしています。

 

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小塚ゴシックはELとH、游ゴシック体はLとHを重ねてます

 

游ゴシック体と小塚ゴシックの「A」のベースラインにご注目ください。游ゴシック体はベースラインが細太でちがいますが、小塚ゴシックはおなじです。こうしたちがいがある理由を説明します。

 

01)游ゴシック体は太くなるにつれ漢字かなの字面が大きくなります

02)漢字かなとバランスをとるため、やはり欧文の字面も大きくなります

03)ベースラインを固定すると欧文が上方向にだけ大きくなって漢字かなとずれて見えます

04)ベースラインを下げてずれを解消

 

小塚ゴシックは細いウェイトと太いウェイトの漢字の字面設定がほとんど同じなので、游ゴシック体のように欧文の大きさが問題になることはなさそうです。

字游工房がこれまで手がけた従属欧文は、ほとんどこうしたベースライン設定になっています。ほかのフォントベンダーもふくめて小塚ゴシックのようなつくりかたが多数派だということに最近気がつきました。

デザイナにききました

游ゴシック体のディレクターである字游工房代表鳥海修に質問しています。

 

Q : 游ゴシック体制作におけるディレクターの役割をおしえてください

A : 游ゴシック体のプランニング、コンセプトの設定およびデザインの統括です。
デザインの統括について具体的に挙げると、漢字については書体見本の設計と全漢字のイメージの統一です。かなについてはデザインを担当しました。従属欧文については相談役といったところです。

 

Q : 游ゴシック体のコンセプトをわかりやすく教えてください

A : ひとことでいえば普通のゴシック体です。字游工房はベーシック書体を重視していますので明朝体やゴシック体は必須アイテムです。ところが今まで明朝体はありましたがゴシック体はありませんでした。片手落ちですね。したがってゴシック体をつくることは急務でした。

つくるとなれば游明朝体と一緒に使えるように、游明朝体のコンセプトを踏襲するのが順当です。游明朝体が印刷を前提にした長文を組む普通の明朝体を標榜したように、それに合うゴシック体として漢字に対して小さめで、ふところの締まったかなを充てました。

つまり最近はやりのふところの広いゴシックではなく、むかしからある普通のゴシック体を標榜したのです。

 

Q : 游ゴシック体のエレメントの一部をまるくしたのはどういう意図があるんでしょうか?

A : 游ゴシック体は高精細な印刷で使われることを前提としました。高精細なデジタル環境下での文字出力は原字に対してきわめて忠実に再現されます。それは時として起筆や終筆の先端がとても鋭くなり、金属活字や写植文字に慣れ親しんだ私たちにはやや硬質で、刺激が強く映ります。長い時間見ていると疲れるんですね。

ですから游ゴシック体では、 弊社の游築見出し明朝体にならって角をやや丸くすることによって、目に馴染むようにと考えたのですが、どうでしょうか。

 

Q : 游ゴシック体のかなのデザインについて意図したことがあればおしえてください。むずかしかったことはありますか?
A : かなは游明朝体をベースに開発しました。

制作方法としては、はじめは游明朝体のかなを下に置いてゴシック体を書いていったと記憶してます。ただ明朝体の骨格のままでゴシック体にするというのは、等線で描く関係上、狭いアキはどんどん狭くなり、私としては普通の形ではなくなってしまうのですよ。で、開けるでしょ。そうすると文字がだんだん四角くなってしまいます。それだと面白くないですから、今度は游明朝体の骨格を壊すように、しかし違和感のないようにつくる。
結果として、游明朝体と重ねれば相当ずれているのですが、総体としてはファミリーに見える、このあたりがむずかしいといえばむずかしい。でも一番むずかしいのは自分のデザインしたかなを客観的に見れないということかもしれませんね。

 

Q : 游ゴシック体はどんな場面でつかってほしいですか?
A : 今回のLとHはともに見出し用と考えています。曲線が多くて癒し系の書体だとおもいます。静かに長く使ってもらえればうれしいです。
特にLは縦画の起筆やハライの先端に拡大しないとわからないような細かい処理が施されいるので、Lを大きく使ったものを見てみたいですね。それから全く反対ですがLの本文も見てみたい。だれか使ってくれないかな。明るいというか、白い紙面になるはず。でも勇気いるだろうな。