游築見出し明朝体の制作方法

游築見出し明朝体はこんな風に制作しています。

 

1)スキャニング
見本帳を1ページまるごとスキャンします。解像度は720dpi。その後に1文字ずつ切り離し、SCデータという、私たちが使っているフォントエディタ上でのビットマップ形式に変換します。

 

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左は見本帳、右はSCデータ

 

2)アウトライン作成
フォントエディタに先ほどのSCデータをテンプレートとして表示させ、ペンツールでアウトラインを書いていきます。オートトレースしないのは、得られるアウトラインの質が良くないためです。フォントデータのアウトラインには「必ず極点を置くべし」というような約束事もあったりしますし、デザインの完成度を上げるためのアウトライン修整がしやすいように、ルールに則ったアウトラインが望ましいのです。

 

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フォントエディタのアウトライン編集ウィンドウ

 

3)一次修正
大きさに違和感がある文字、太さに違和感がある文字などがないか目視で検査し、修整します。復刻フォントでもある游築見出し明朝体のデザイン修整方針については、改めてこのページでお伝えしたいと思っています。

 

4)二次修正

もう一度、検査と修整を繰り返し完成度を高めていきます。

 

5)センター
寄り引きともいいますが、仮想ボディ内における文字の位置確認です。この游は左上に寄って見えるので、アウトライン全体を移動して修整する必要があります。

 

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仮想ボディ内における文字の位置

 

6)グリフ確認
グリフが間違っていないか確認します。たとえば門(もんがまえ)でつくるべき文字を鬥(とうがまえ)でつくったりしてないかをチェックします。この作業は一次修整や二次修整と平行して行います。

 

このあとフォント化の作業が残っていますが、デザイン作業はこれにて終了です。1から6までの工程で、おおよそ1文字1時間くらいでしょうか。もちろん文字によって変わりますし、一文字を一息に完成させてしまう訳ではありません。工程ごとに全文字をチェックし、全体の完成度を少しずつあげていきます。

 

ここからは脱線です。書体の完成度が上がっていくにつれ、制作者自身の書体に対する理解度も深くなっていきます。するとどうなるか。最初のころに制作した文字の出来が悪く見えてくるのです。悪く見えるだけならいいのですが、実際に悪いこともあります。見過ごすことが出来ずにゼロから書き直したりもします。書体制作者の悪夢のひとつです。

游築見出し明朝体の字形

書体制作を開始するにあたって、あらかじめ決めておかなければならないものの一つにデザイン仕様があります。字面や太さの設定は勿論のことですが、字体の表現方法?つまり字形に関しての仕様も制作前にはっきりさせておく必要があります。今回は游築見出し明朝体の漢字の字形についてお話します。

 

ところで、文字を作るということは、考えてみますと難しいことです。それは「東」という文字を、誰の目にも「東」と読めるように作ることの難しさ。端的にいって、字形差と字体差の峻別の難しさです。JIS例示字体に最も近づけた字形で文字を作るというのは、一つの現実的な方法ですし、実際多くの書体の実装字形はそのようになっていると見えます。

 

しかしながら游築見出し明朝体は、どうもそうすべきではないと考えました。それは游築見出し明朝体の開発テーマが、プロフェッショナルユーザーのための「見出し用書体」であることと、加えてやはりこの書体は金属活字の覆刻的側面が強いことによります。きっちりとJIS例示字体に合わせて字形を整えるのでなく、もっと鷹揚な書体であってもいいのではないかと考え、以下のようにデザイン仕様=字形を決めました。

 

・まず見本帳の全ての文字について字形調査を行いました。字形・デザイン処理にどのような揺れがあるのか、ないのかを調べるのが目的です。JIS例示字形との揺れのほかに、他の活字書体との字形差についても、可能な限りの様々な資料を用いて行いました。

 

・明朝体は様式化された書体です。その意味では構成要素である部分字形は、本来共通化されているはずです。一方で活字文化は、安易な字形解釈を許さない伝統があります。闇雲に小さな字形差にすぎないだけの異体字が膨れ上がるだけですから。また見本帳の字形は現代の書体ほどには、デザイン処理が統一されていなかったりすることもあるでしょう。どこまでデザイン処理を修正統一するのか、しないのか、デザイン仕様の難しいところですが、一つの判断材料として「明朝体活字字形一覧」は大変役に立ちました。結果的に、デザイン処理の統一という面では現代的な書体ほどには手を加えていません。

 

・字形調査の結果以下の3つのカテゴリーに文字種を分類することが出来ます。
1)見本帳字形に従って作る文字
JIS例示字体との字形差がわずかなものは基本的に見本帳字形のまま制作しています。

 

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例1)「文」や「父」「校」などは筆押さえつきで作ります。

 

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例2)「八」や「分」「松」などは「八やね」で作ります。

 

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例3)「舌」や「南」「枯」などの十の縦角は斜めのまま作ります。

 

2)常用漢字表の字体のように新たに書き起こす文字

見本帳字形は正字体、旧字形なので文字によっては新たに書き起こす必要があります。そのような場合、常用漢字表なりJIS例示字体に合わせて制作します。また単純に見本帳にはない文字もありますので、それらもJIS例示字体に合わせて新規に制作します。

 

3)なんらかの理由で見本帳字形に修正を施す文字

例1)「音」などの亠の一角目は縦に直しました。

例2)示扁の旧字形、食扁の旧字形、2点しんにょうは、JIS例示字体に合わせました。

他にも、見本帳には変わった字形の文字が幾つか見受けられます。今の時代においてあまりに一般性を欠いていると思われる文字については、修正しています。

 

見本帳に掲載されている本来の字形(正字体なり旧字形)はどうするか、大きな問題です。これについては次の機会に游築見出し明朝体の文字セットと共にお話できればと思います。

游築見出し明朝体の文字セット

游築見出し明朝体の文字セット、さしあたって漢字の文字セットについてお話します。

 

通常、書体の新規開発といえば、まずもってJISの第1水準、第2水準は全て制作するのですが、そうなりますと漢字だけでも6,400字ほど制作する必要があります。従来の標準的なDTP書体の実装文字セットは、Adobe-Japan1-2を規範とするものでしたが、それですと78JIS字形やIBM外字なども用意することになり、漢字の総数は約7,000字となります。現在では、2000年のJIS改定(JIS X 0213)で大幅な字種拡張がなされ、漢字の数は10,000字を超えました。さらに、Adobe-Japan1-5という最新の文字セットは、JIS X 0213をカバーしている上に様々な外字が揃っていまして、漢字非漢字含めて20,316という膨大なキャラクターコレクション(イメージとしては活字箱)を築いています。はたしてこれだけの文字セットを一から作りはじめるとしたら、どれ位の時間が必要になるのでしょうか…。

 

全ての書体が20,000字必要だとは思えませんし、JIS X 0213を満たしていなければいけないとも思えません。Adobe-Japan1-5をさしあたってフルセットと位置づけるならば、書体の性格ごとに、様々なサブセットフォントがあってもいいのではないかと考えます。実際、仮名フォントである「游築初号ゴシックかな」は、ある意味、和文フォントの究極的なサブセットフォントだといえます。必要な文字種のみ用意されたフォントであれば、いくらかリリース次期も早められるでしょう。いたずらに制作時間をかけるよりも、速やかにユーザさまのもとに提供することが何よりも優先される、そんな性格を持った書体もあります。書体の質を落とすのでなければ、収容文字数を書体毎に最適化するのが一番の近道ではないかと考えています。

 

游築見出し明朝体は、このサブセットという可能性を考えるのにうってつけの書体です。まずなによりも、これは見出し用の書体なので、JISや、Adobe-Japan1-5といった大きな文字セットに、それほど拘らなくてもよさそうです。端的にいって、見出しを組むのに最低限必要な文字を用意すれば事足りそうだと考えられます。ではその最低限の文字セットはなにかというと、まず常用漢字1,945字と人名漢字285字を考えたのですが、それだけでは明らかに足らないことに気付きました。何しろ都道府県の全ての漢字が揃っているわけでないのですから。そこで次に考えたのは、JISの第1水準2,965字を全て揃えるという案と、2年ほど前に出された国語審議会の表外漢字字体表の印刷標準字体1,022字(以下、「表外漢字」と表記します)をサポートするという案です。

 

人名漢字の第2水準にまたがっている文字と、第1水準の全漢字を合計すると総数はほぼ3,000字。さらに「表外漢字」に対応させようとすれば、概算ですが、総数は3,600字前後になると考えられます。この書体の性格を考えると、やはり第1水準の例示字体も「表外漢字」も揃っていたほうがよさそうだと判断し、以下の文字種は全て制作することにしました。

 

1)JIS 第1水準の漢字2,965字

2)常用漢字 1945字(これは全て第1水準に含まれます)

3)人名漢字285字(一部は第1水準に含まれます)

4)「表外漢字」1,022字(一部は第1水準に含まれます)

 

これだけあれば見出しを組むための最低限の文字セットは十分満たしているのではないかと思います。

 

ところで、游築見出し明朝体のベースになっているのは、東京築地活版製造所の36ポイント明朝体です。参照している見本帳もかなりの年代ものでして、当然のことながら、国は國、霊は靈という正字形です。また、現代の書体には見られない字形差も多数見受けられます。当初から、この原寸彫刻時代の活字の持つ雰囲気を大切にしたいと考えていましたので、全ての制作文字種について見本帳にある正字体・旧字形(以下、「異体字」と表記します)も、原則として制作することにしました。ただし闇雲に制作していたのでは、埒があかないので、様々な資料をもとに、一般的に使われていたと思われる「異体字」のみの制作にとどめました。これらの「異体字」ならびに先述しました「表外漢字」はJIS内の文字とJIS外の文字があります。JIS外の文字については、アプリケーションの字形切り替え機能によって使えることになるでしょう。 結局、制作文字数は漢字だけで4,000文字を超えてしまいました。内訳は、JISの第1水準の漢字全部と、第1水準以外の人名漢字、表外漢字字体表の印刷標準字体、そしてこれらの異体字です。いずれ機会があれば、より具体的に収容文字種をお見せできるような資料を用意する予定です。

游築見出し明朝体のデザイン上の問題点・字面 その1

游築見出し明朝体を制作するにあたり「見本帳のままではまずい」と修整の対象とした点がいくつかあります。この書体のデザイン方針をご理解いただくためにも、こうした点を「デザイン上の問題点」と題して、数回にわたってお話しします。今回は字面(じづら)についての第一回です。

 

字面というのは仮想ボディの中での文字の大きさをいいます。字面の大小は、ある文字サイズ(ポイントとかQ数)での実際の文字の大きさを決めるとても大切な書体デザインの要素のひとつです。組版された時の、文字と文字の間のスペースは字面で決まります。

 

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字面の大小による同サイズでの文字の見え方の変化

 

游築見出し明朝体をデザインするにあたって、字面に関する問題は二つありました。
一つ目は全体に字面が大きすぎるということです。ベースになっている36ポイント活字は、ほぼボディいっぱいに作られているようで、見本帳の中には、インクが拡がった結果ボディサイズをはみ出すような印字状態の文字もありました。この字面のままフォント化してしまうと、場合によっては文字同士が接触してしまいますし、小さなサイズで使われた場合には字間が窮屈になりそうです。活字の場合は、使用サイズがそもそも決まっていますから、これでも問題なかったのかもしれません。

 

字面の変更は、その書体の印象を大きく変えてしまうため慎重に行う必要がありますが、ボディサイズより大きな印字をテンプレートとして使うことは出来ません。すべてのテンプレートを3%縮小して、もっとも字面の大きな文字もボディ内に収まるように修整いたしました。

こうした修整によって、游築見出し明朝体の字面はベースとなった36ポイント活字よりすこしだけ小さくなっています。本来の姿をすこし変更したことになりますが、書体としてはとても使いやすくなっているはずです。

 

字面に関するもう一つの問題は次回お話しします。

游築見出し明朝体のデザイン上の問題点・字面 その2

字面についての第2回をお届けします。

前回はベースとなった36ポイント活字の字面が大きすぎた、というお話をしました。字面に関するもう一つの問題は、字面が揃っていないということです。

 

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「愛」と「馬」

 

図の愛と馬は、36ポイント活字の字面そのままの状態です。愛と馬の大きさがずいぶん違います。字面が揃っていないというのはこういう状態をいいます。全体を通してみると36ポイント活字は大きな字面をもった文字が多い書体だとわかるのですが、その中に何文字か極端に字面が小さい文字がありました。何文字が例をあげます。愛にはさまれた文字が「小さすぎる」文字です。

 

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字面の小さい文字

 

このままフォント化して「見本帳がこうだったんです」と言い張ってもいいのですが、それでは通常みなさんが書体に求める品質を満たせないと判断しました。あまりに小さかったり、大きかったりする文字は個々に修整しています。字面の修整後はこうなります。

 

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修整後

 

游築見出し明朝体は書体の性格からして多少の字面の大小は許せますから、例えばヒラギノ明朝体ほど字面を揃えることはしません。また「口」や「日」など小さくても違和感がない文字もあります。そういった文字は小さいままにしてあります。

 

デザイン上の問題点、次回は「傾き」について書く予定です。

游築見出し明朝体のデザイン上の問題点・傾き

デザイン上の問題点、今回は傾きについてお話しします。

 

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文字の傾き

 

左から小塚明朝、ヒラギノ明朝、リュウミン、そして制作中の游築見出し明朝体です。游築見出し明朝体の縦画がほんの少し左に傾いているのがおわかりいただけると思います。

 

通常、明朝体の縦画は小塚明朝のように垂直線で書くか、あるいはヒラギノ、リュウミンのように垂直線は使わずとも垂直に見えるように書くかのいずれかです。
しかし游築見出し明朝体のベースとなった36ポイント活字はほとんどの文字が左にすこし傾いていて、まっすぐ立っている文字のほうが珍しいという状態でした。この傾きをデザイン上のバグとして直してしまうのか、そのままにするのかは、游築見出し明朝体を制作するにあたっての大きな問題でした。

 

結論からいうと、上の「傾」くらいの傾きはそのまま活かし、下の「飛・体・肥」まで傾いている文字字は修整することにしました。

 

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修整対象の文字

 

修整といってもまっすぐにしてしまう訳ではなく、「ほんの少し」傾いて見えるようにするための修整です。まっすぐに立ててしまうと「らしさ」がなくなってしまうのです。36ポイント活字の持っている立体感や、長い左ハライ、太い右ハライを支えるには少しの傾きが必要なのかもしれません。

 

デザイン上の問題点、次回は「太さ」について書く予定です。

游築見出し明朝体のデザイン上の問題点・太さ

書体のデザインでは各文字の太さを揃えることはとても重要なことです。数値的に全部同じ太さにするのではなく、同じ太さに見えるように、または同じ筆で書いたように見えるよう太さを調整していきます。試みに数値的に全部同じ太さの明朝体を作ってみます。

 

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同じ太さで書いた明朝体

 

わかりやすいようにウロコ(横線の終筆の三角形)の大きさも同じになっています。一番気になるのは酬の酉の中の2本のタテ線でしょうか。ずいぶん太く見えます。細かいところでは、東や十のウロコが小さく見えたり、国の中央の縦線が太く見えたり、十の縦線が細く見えたり、国の口、東の日、酬の酉の左右の縦画のバランスなどが気になります。游明朝体Rで同じ文字を並べてみます。

 

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游明朝体R

 

このサイズで見ると、酬などはもっと太くてもいいように思えますが、本文組サイズである9ポイントくらいで見ることを考えるとこれくらいの太さにしておいた方が揃って見えます。

 

游築見出し明朝体では、ベースにした36ポイント活字の太さのバラつきが問題でした。

 

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修整前

 

36ポイント活字のままの状態です。期、幸、征、刀、臣は細すぎ、辛、協、牛、下、南は太すぎます。中、腰がだいたい平均的な太さでしょうか。ここまで太さにバラつきがあると組んだ状態が心配です。文章を読んでも目が止まってしまうでしょう。平均的な太さに合わせて修整することにしました。

 

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修整後

 

修整後の状態です。だいぶ揃ってみえますが、辛、下、南、征あたりはまだ太さが気になります。しかし游築見出し明朝体の性格からして、これ以上揃える必要はないでしょう。ヒラギノのように揃って見えることが求められる書体ではないと考えています。ちなみにヒラギノ明朝体だとこう見えます。

 

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ヒラギノ明朝体

 

「デザイン上の問題点」というネガティブなタイトルで数回に渡ってお話してきましたが、今回でおしまいにします。問題点として字面、傾き、太さを挙げましたが、どれも程度の問題で、それぞれの問題点が実は游築見出し明朝体の大きな魅力にもなっています。問題点ばかりでなく、惚れ惚れするような処理や、きれいな曲線、絶妙なバランスといったデザイン上の美点もここで挙げるべきなのですが、今回ご用意した游築見出し明朝体書体見本PDF [1.7MB]をご覧いただければ、そうした点はおわかりいただけると考えています。ダウンロードしてご覧いただければ幸いです。

游築見出し明朝体の非漢字の文字セット

*開発当時(2003年)の開発ノートです。フォントバージョン2.000以降の游築見出し明朝体には、英数字が収容されています。

 

私たちは仮名や英数字、記号など、漢字以外のすべての文字を一口に「非漢字」と呼んでいます。その中には「、」や「。」、あるいは「 」(スペース)なども含まれます。Adobe-Japan1-3に準拠した一般的なデジタルフォントの場合、非漢字の収容字数は約1500文字、Adobe-Japan1-5に準拠した一般的なデジタルフォントの場合、その字数は約7600文字におよびます。

 

游築見出し明朝体にはどのような非漢字を収容するべきなのか。私たちは漢字と同じように「見出し書体として必要とされる字種だけを収容する」という大きな方針を立て、次のように判断しました。

 

■収容した文字

・仮名(あいうえおアイウエオぁぃうァィゥなど)

・仮名又は漢字に準じるもの(ゝゞ〃仝々〆など)

・記述記号(、。、:;?!?/~∥|…など)

・括弧記号(“”[]〈〉《》「」『』【】など)

・一般記号(☆★○●◎◇◆□■△▲※〒♪など)

・矢印記号(→←↑↓など)

 

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游築見出し明朝体の非漢字の一部

 

■収容しない文字

・英数字(ABCDEFGabcdefg0123456789など)

・ローマ数字(I II III IV V VI など)

・ロシア文字(АБВГДабвгдなど)

・ギリシャ文字(ΑΒΓΔΕαβγδεなど)

・単位記号(¥%キロメートルの合字など)

・学術記号(+-±×÷=∞∴など)

・枠付き文字(○入り数字など)

※英数字を収容しない点については次回詳しくお知らせします。

 

結果として游築見出し明朝体の非漢字の収容字種はおよそ600文字となりました。見出し書体に求められる非漢字はすべてカバーしているはずです。

 

私たちにとって、Adobe-Japan1-5の20,000字強という膨大な文字数は、書体の文字セットを見つめ直すよいきっかけとなりました。そのひとつの回答が游築見出し明朝体の文字セットです。皆さんのご意見をお待ちしています。

游築見出し明朝体の英数字について

*開発当時(2003年)の開発ノートです。フォントバージョン2.000以降の游築見出し明朝体には、英数字が収容されています。

 

前回の開発ノートでは、游築見出し明朝体に英数字を収容しないことをお伝えしました。今回はその点について少しくわしくお話しします。

 

現在のDTPの現場では、和文書体に含まれる欧文(和文に従属している欧文であるという点から従属欧文ともいいます。以下従属欧文)はほとんど使われません。多くのデザイナは、海外の英語圏のデザイナがデザインした欧文フォント(以下欧文フォント)を組合わせて使います。

こうした背景には、従属欧文のデザインの質に対する不満ももちろんありますが、それだけでなく、欧文書体を変化させることで得られるデザイン上の効果が求められているということもあるようです。かな書体を変化させて組版の印象をコントロールするように、積極的に欧文書体を選択するデザイナが増えてきているのです。

 

こうした現状をいわば追認する形で、游築見出し明朝体には英数字を収容しないことにしました※。多くがデザイナであろう游築見出し明朝体のユーザーには、ご自身で仕事ごとにふさわしい欧文書体を選んでいただこう、という判断です。(※このことは、今後字游工房がベンディングする書体全てに英数字が含まれなくなるということを意味しません。書体ごとに判断していきます)

 

と言っても、何もかもお任せでは、無責任のそしりを免れないので、游築見出し明朝体と一緒に使う欧文を選択する際のガイドを記しておきます。

 

ポイントその1:やはりローマン体
明朝体にあわせる欧文はローマン体と相場が決まっているだけあって、やはりローマン体との相性が一番いいようです。しかしローマン体以外を否定するものではありません。サンセリフなど他のスタイルでも予想外に合う書体があるかもしれません。

 

ポイントその2:漢字の縦画の太さに合っていること
游築見出し明朝体の漢字の縦線はかなり太いです。欧文も充分な太さがあったほうが漢字の黒みとバランスが合うようです。

 

ポイントその3:漢字の横線の太さに合っていること
游築見出し明朝体の漢字の横線は極細です。まったく同じ太さである必要はありませんが、より横線が細い欧文が合うようです。

 

実際に3つの欧文を組み合わせてみました。和文のサイズと欧文のサイズは変えてあります。

 

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Bodoni Roman

 

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ITC Caslon 224 Medium

 

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ITC Garmond Book

 

上記の3つの欧文フォントは、弊社の製品ではありません。

游築見出し明朝体のかなと游築36ポ仮名 その1

游築見出し明朝体の仮名は一見すると游築36ポ仮名と非常によく似ています。今回の開発ノートは、この二つの仮名の違いについてお話しします。

 

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上:游築見出し明朝体の仮名
下:游築36ポ仮名

 

游築見出し書体の仮名は、大きなサイズでの使用にも耐えるよう、字の形そのものに魅力を持たせようとしています。そのためには36pt活字の姿をそのまま活かすべき、という判断をして、太さや大きさ、傾きなどを揃えることは重視しませんでした。すこし左に傾いた「た」や狭い空間(赤い○)などもそのままです。実際に筆で書いた生々しさが色濃く残されていて、当然のことながら游築見出し明朝体の漢字とよく合っています。

 

游築36ポ仮名もベースになっているのは同じ36pt活字です。ただしこちらは現代的なデザインのヒラギノ明朝体漢字に合わせても違和感のないように、たくさんの細かな修整が加えられています。具体的な例をいくつか挙げると、游築見出し明朝体ではそのままにした狭い空間(赤い○)は拡げています。にじんで見えたり、黒くつぶれることがないようにです。また、筆の返し(青い矢印)部分のデザイン処理も統一されて、どの文字も同じ筆の返し方に見えるようになっています。「ね」は黒みを取るために書き方そのものが変更されていますし、「は」にも見られるの最後の結びは細く処理して、黒みをすっかり落としています。「た」の傾きも当然直っています。

 

游築見出し明朝体の仮名と游築36ポ仮名の違いがおわかりいただけたでしょうか。見出し書体として割り切って、小さなサイズでの視認性を重視していない游築見出し明朝体の仮名。ヒラギノ漢字と合わせて使うため、ある程度の汎用性を持たせてある游築36ポ仮名。お使いになる場面に合わせて使い分けていただければと思います。

游築見出し明朝体のかなと游築36ポ仮名 その2

游築見出し明朝体は、大きなサイズで使われることを前提とした見出し書体ならではのデザイン処理をいくつかしています。今回はこうしたデザイン処理についてお話しします。

 

1)細い横線
明朝体の横線が細いのは当たり前ですが、細さにもいろいろあります。游築見出し明朝体の横線の太さは1.8pt(国の一番上の横線:100ptで表示した時)です。大きく使われたときに横線が太く見えないように、すこし細めに設定してあります。同条件でのヒラギノ明朝体W8の横線は2pt、リュウミンUの横線は2.4ptでした。游築見出し明朝体の横線には抑揚がついていますから、実際にはこれらの明朝体の横線よりも太く見える場合もあります。
参考に游明朝体Rの横線を計ると2.4pt(同条件)でした。本文用に小さく使う書体ですからある程度の太さが求められるのです。小塚明朝Hの横線は1.6pt(同条件)でした。小塚明朝も細いです。

 

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左から游築見出し明朝体、ヒラギノ明朝体W8
リュウミンU、小塚明朝H、游明朝体R

 

2)せまいアキ
字游工房内でのデザイン用語で、文字の中の空間のことを『アキ』とよびます。「このアキおかしい」とか「このアキもっと広くして」なんていうふうに使います。
前回の仮名の時にも狭いアキのお話をしましたが、漢字も同様に狭いアキがあります。
小さく使うとつぶれてしまうかもしれません。

 

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赤い○がせまいアキの例

 

3)ハライの先端の太さ
游築見出し明朝体のハライの先端の太さは、0.9ポイント(東の左払い:100ptで表示した時)です。ハライの先端の太さはハライの長さや太さによって見え方が変わるので、書体を通じて数値的に揃っているわけではありませんが、だいたい同じ太さに見えるようにしてあります。同条件でのヒラギノ明朝体W8のハライの先端は1.1pt、游明朝体Rは1.2ptですから、すこし細目の設定になっているのがおわかりいただけると思います。参考までに、リュウミンUは0.8pt(同条件)、小塚明朝Hは1.3ptでした。

 

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左から游築見出し明朝体、ヒラギノ明朝体W8
リュウミンU、小塚明朝H、游明朝体R

 

4)先端部、交差部分の処理
游築見出し明朝体の先端部、交差部は丸く処理してあります。丸くして柔らかい印象を出したいというよりは、デジタルフォント特有の「どんなに拡大しても角は角のまま」という状態を避けたいがための処理です。通常のサイズでは丸みに目は行きませんが、ある程度の大きさ以上になって丸みが見えてくることで、文字のスケール感が出るのではと考えました。見出し書体としては大切なことです。角を丸める処理は楕円設計の「きちんと角丸」というツールを使いました。とても良くできたツールなのですが、残念ながら現在は販売されていないようです。

 

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先端部、交差部分の処理

 

游築見出し明朝体の、見出し書体ならではのデザイン処理についてお話ししました。組見本のPDFを拡大してご覧いただくと、こうした処理をご確認いただけると思います。